硝酸塩は魚にどこまで有害か:論文でわかっていることと、水槽への当てはめ方
水質検査でいちばん長くつきあう数値が硝酸塩です。「何mg/Lまでなら大丈夫ですか」はよく聞かれますが、答えは一つではありません。この記事では、硝酸塩の毒性を整理した論文(Camargo ほか、2005年)と、窒素化合物全体を扱った総説を読み、わかっていることと水槽にそのまま当てはめられないことを分けて書きます。
運営者が論文を読んでまとめたもので、運営者自身の飼育実験の結果ではありません。出典は記事の最後にあります。
この記事でわかること
- 硝酸塩は、窒素の仲間の中では毒性が低いほうです。ただし「無害」ではありません。
- 論文は、長く浴びると影響が出うる目安として、硝酸態窒素で10 mg/L、もっとも敏感な淡水の生き物を守る上限として2 mg/Lを挙げています。
- 水質検査の数値は、硝酸イオンとして表示されることが多く、この2つの数値とは単位が違います。換算が必要です。
- 論文の対象はサケ科の魚、無脊椎動物、両生類などです。熱帯魚で同じ数値が当てはまるかを直接示した資料は、今回確認できていません。
窒素の仲間の中では、毒性は低いほう
魚の排泄物や餌の残りから出るアンモニアは、バクテリアによって亜硝酸、さらに硝酸塩へと変わります(くわしくは窒素サイクルの記事)。窒素化合物の毒性を比べた総説(Camargo & Alonso、2006年)では、水の生き物に対していちばん毒性が高いのは非解離アンモニア、いちばん低いのはアンモニウムと硝酸塩だとされています。また、海の生き物のほうが、淡水の生き物より窒素化合物に強い傾向があり、海水中のイオンが関係していると考えられています。
硝酸塩が「最終的にたまる成分」として扱われるのは、毒性が低いために、アンモニアや亜硝酸のようにすぐ命にかかわらないからです。ただ、毒性が低いことは、たまっても平気という意味ではありません。
硝酸塩が体に与える影響の仕組み
Camargo ほか(2005年)は、水の動物に対する硝酸塩の主な毒性は、酸素を運ぶ色素を、酸素を運べない形に変えてしまうことだとまとめています。血液が酸素を運ぶ力が下がるので、長く浴びるほど体に負担がかかります。
論文が示した数値と、単位の注意
同じ論文は、次のように述べています。
- 硝酸態窒素(NO3-N)で10 mg/Lの濃度は、長期間さらされた場合に、淡水の無脊椎動物、魚(ニジマスなどのサケ科)、両生類に悪い影響を与えうる。
- もっとも敏感な淡水の生き物を守るには、2 mg/L(NO3-N)が上限として適切だと提案している。
注意したいのは単位です。上の数値は「硝酸態窒素」として表したもので、窒素の重さだけを数えています。市販の試験紙やキットの多くは「NO3」(硝酸イオン)の重さで表示するため、数値が大きく出ます。換算は、窒素の原子量と硝酸イオンの式量から、次のようになります。
| 論文の数値(NO3-N) | キットの表示(NO3)に直すと |
|---|---|
| 2 mg/L | 約 8.9 mg/L |
| 10 mg/L | 約 44 mg/L |
(NO3-Nの値に約4.43をかけるとNO3の値になります。)お使いのキットの単位は、説明書で確認してください。単位が違うまま比べると、数値を4倍以上読み違えることになります。
毒性は、濃度だけでなく条件で変わる
論文は、硝酸塩の毒性について次の傾向を報告しています。
- 濃度が高いほど、また浴びる時間が長いほど、毒性が強くなる。
- 体が大きいほど、毒性は弱くなる。
- 塩分が高いほど、毒性は弱くなる。淡水の動物は、海の動物より敏感である。
つまり「何mg/Lを超えたら危険」という一本の線は引けません。小さな稚魚やエビは、成魚より影響を受けやすいと考えるのが安全です。
水槽に当てはめるときの注意
- 対象の生き物が違う。論文のデータは、主に淡水の無脊椎動物、サケ科の魚、両生類のものです。ネオンテトラやグッピーなどの熱帯魚で、同じ数値が当てはまるかを直接示した資料は、今回は確認できていません。
- 水槽は「長期間の暴露」にあたる。水換えの合間も含め、同じ水に長く住むため、短期の試験より長期の影響のほうが参考になります。
- 2 mg/L(NO3-N)は、ほとんどの水槽ですぐには守れない値。水道水自体に硝酸塩が含まれる地域もあります。数値は「ここを越えたらすぐ危険」という線ではなく、低いほうが安全側という目安として使うのが現実的です。
運営者の考えとしては、数値だけを追いかけるより、同じ水槽で定期的に測って、急に上がっていないかを見るほうが役に立つと思います。水換えでどれくらい下がるかは、水槽の計算ツールで確かめられます。水草で硝酸塩を減らしたい場合の注意は水草が硝酸塩を減らさない理由の記事、バクテリアと硝酸塩の関係はろ過バクテリアの記事 で書いています。
参考文献
- Camargo, J.A., Alonso, A., Salamanca, A. (2005) Nitrate toxicity to aquatic animals: a review with new data for freshwater invertebrates. Chemosphere 58(9): 1255–1267. doi:10.1016/j.chemosphere.2004.10.044
- Camargo, J.A., Alonso, A. (2006) Ecological and toxicological effects of inorganic nitrogen pollution in aquatic ecosystems: A global assessment. Environment International 32(6): 831–849. doi:10.1016/j.envint.2006.05.002
換算の係数は、窒素の原子量14.007、硝酸イオンの式量62.005から計算しています。論文の要旨をもとにした記事で、全文の細部までは確認していません。